子孫あっての先祖供養

 先祖供養は子孫が続くということを前提にしている。先祖を祀ってくれる子孫がいなければ、先祖供養は成り立たない。当たり前のことであるが、忘れがち、あるいは考えもしないことではないだろうか。業界は「先祖供養」ということを当然のように言うが、家族形態が変化する中で、先祖供養のあり方も変化することになるかもしれない。
 ところで先祖を供養する、ということは一体どのような意味を持つのだろうか。「ご先祖様をご供養申し上げる」という言葉は、仏壇店であれば必ず口にする言葉であろうが、先祖供養という観念が日本において広まるのは江戸時代からだろう。
 先祖を大切にすることは、家産を引き継ぐという側面を持つ。財産の相続が先祖の存在を意識させる。江戸時代は農民が財産を持つようになった時代であった。江戸時代以前も財産はあったが、それを持つのは領主であったり、地域の武家集団であったり、貴族が持つ領地であったりした。江戸時代は人口の大半を占める農民が財産を持てるような時代であり、その財産を食いつぶさず、維持しながら次の世代へと引き渡して行くということが人生の徳目として説かれるようになった。ご先祖様を供養するということは、ここでは財産を残してくれた先祖への感謝であり、子孫へとその財産を伝えて行く自らの役割を認識することに他ならない。
 柳田國男的に言えば、先祖供養は亡者の荒魂を供養することにより和魂に昇華させることに他ならない。つまり死んだ者の魂は放っておけば子孫に祟るということだ。逆に供養をすれば先祖を守る神になる。こうした死者の祟りへの怖れが先祖供養のひとつの側面である。
 以上は歴史的な先祖供養の意味であるが、現代的に言えば、「命の繋がりを認識すること」や「先祖から引き継いだ命を感じること」であったりする。また、意識される先祖が自分の両親に限定されることもあるだろう。都会の核家族の場合は、世帯主が初代先祖になる場合が多く、世帯主の子供にとっての先祖の概念は両親のみとなり、その結果先祖供養ではなく、死者供養という色合いが強くなる。
 先祖供養は子孫があって成り立つのだが、結婚をしない人は多い。2000年に行われた調査によれば、25〜29歳での未婚率は、男性69.3%(1980年調査では55.1%)、女性54%(同24%)、30〜34歳では男性42.9%(同21.5%)、女性26.6%(同9.1%)と大幅に上昇している。ちなみに、1960年頃であれば、30歳以上での未婚率は男女ともに10%以下である。
 一方、結婚しても離婚するカップルも多く、離婚件数は年間30万件に達しようとしている。片親の家庭は増えるし、再婚により、親を複数名持つ子供も増える。
 これは勝手な推測に過ぎないが、蓮如の時代、真宗が広まった理由のひとつは、先祖供養不要にあるのではないだろうか。戦乱や飢饉が日常的に取り囲む時代、子孫が続くという保証はない。成仏に先祖供養が必要ならば、戦乱と飢饉の時代、多くの魂は仏になることなく浮遊することになる。しかし、先祖供養不要ならば、それも生前から往生が約束されているのならば、安心して死ぬことができる。
 子孫を残す者が確実に減少する時代、仏壇店は「先祖供養」が持つ言葉の意味がさらに伝わりにくい時代を迎え始めていると覚悟した方が良い。

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(2005年8月)